新実在論『マルクス・ガブリエル欲求の時代を哲学する』

書評

『世界は存在しない』

これは、本書『マルクス・ガブリエル
欲求の時代を哲学する』(丸山俊一)

紹介されている言葉です。

実に不思議に感じる言葉です。

どんな意味が根底にあるのだろうか?
その真意とは?

こうした思いから、私の
「せきがくの旅」は、始まりました。

哲学の専門家は別として、多くの一般の
人々は、この言葉についてどう感じるだ
ろうか?

「哲学者が考えることはわからない」と
読み流す人、「この言葉の真意を知りた
い」と強く望む人に分かれるはずです。

そして、私は勿論、後者です。

実態がそうなのか、あるいは、
ある視点から考えると、そういう結論
に結果的に導かれることになるのか。

思いはいろいろなシーンを彷徨い、
一気に読み進めることになりました。

現在活躍中の哲学者の中で、
最も気になる人が3人います。

1人目は、日本人で初めてバーグルエン
哲学・文学賞(哲学のノーベル賞)を
受賞された柄谷行人氏。

2人目、「人新世の資本論」の著者
斎藤幸平氏。

そして、3人目は、本書の主人公である
マルクス・ガブリエル氏です。

3人とも、とても興味があります。

これから私淑を深めていきたいと
こころから思える3名です。

今回の「マルクス・ガブリエル欲望の
時代を哲学する」は、「新しい視点」
を与えてくれるような、そんな予感と
期待の中で読み始めました。

そして、それは、期待以上の充実感を
味わうことができたように思います。

お勧めの1冊です。

本書は、以下の章で構成されています。

Ⅰ章 静寂が叫ぶ国・ニッポンを
哲学する

Ⅱ章 哲学は時代との格闘だ

Ⅲ章 技術を獲得した果てに人間は
どこへ

では、「この知の探索」をどうぞ!

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本書で学んだ素敵な言葉

知恵を持つことに勇気を持て!
(Sapere Aude)

本書Ⅱ章「哲学は時代との格闘だ」より

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今起きている事実を求める心を大事にしてほしい!

『僕らは、今こそ、本当の事実を見つけ
出すため、人類全体として力を合わせな
ければならない。』

これは本書において、マルクス・ガブリ
エルが主張する「新実在論」が示す考え
方の一つであると理解しています。

「本当の事実を見つけ出す」という言葉、
これは、非常に重要なキーワードである
と得心しています。

今地球的規模で起きている政治的なこと、
経済的なこと、環境的なこと、さらには、
宇宙的なことについて、「本当の事実」
を明らかにする必要がある。

しかし、多くの人が、そうした認識を持ち
ながらも、そのままにして、日々の生活に
流されている現実があるように思います。

私もその中の一人でした。

しかし、勇気を持って、そこに介入して
いくことは、非常に大事なことであると
本書から大きな刺激を受けることになっ
たのです。

本書では、マルクス・ガブリエルの考えが
以下のように記されています。

『僕らは今深い危機の時代の中にいる。
民主主義、気候変動、中東の破滅の可能性
などの危機だ。危機の時代なんだ。

危機の時代に何が起きるかと言うと、
新しい観念が必要になってくる。

われわれは、今何が起こっているかを

理解する必要が大いにある。』

現代における危機感をしっかりと、
伝えてくれています。

そして、さらに、次のよう続きます。

『そして、もし僕らが今何が起こっている
のかを理解しないとすれば、僕らはおそら
くこちらに向かってくるものさえ見えない
力によって破壊されてしまうだろう。

そして、今こそ公的な領域で哲学が必要と
される時だ。僕らがどこに立ち、これらが
何を意味するのかという哲学的な内省をす
る時だ。』

今が、こうした取り組みをすべき、
ぎりぎりの限界点にあることも、本書を
読み進める中で理解が深まります。

ぜひ、自分が興味を持つ分野から、
「本当の事実」の探究をすすめて欲しい、
そう願っています。

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「新実在論」を提唱する著者の考え

『幸せは絶対に、ここ以外のところには
ない、と、わかることでしか幸せには
なれないんです。

今幸せはそこにあるか、二度とこないか
どちらかなのです。』

これは、本書終章に記されたマルクス・
ガブリエルの言葉です。

どう感じますか?

私は、深く深く彼のこの言葉に吸い寄せら
れるように、その真意を追い続けました。

実に直截的な表現ではありますが、しっか
りと、本質を捉えているように感じます。

「今を生きる」という意味だと理解をして
います。

今願うことを達成できた時の為ではなく、
今、今この瞬間の自分のために、
「瞬間を生きる」と意識して生きる

それが大切なことであると、深く得心
できたように思うのです。

そして、著者が記す以下の言葉が、私の頭
の中で、繰り返し連呼されるのです。

『新実在論』が提起する多元的な価値観の
肯定と八百万の神の国、日本の価値観には
親和性があるのだから』

これは、「意味の領域」のひと欠片として
感化された思いと認識して良いのだろうか

そうした思いを抱えながら、P234の旅を
終えることに。

「新実在論」の理解を深めていきたい、
その思いに至れたことに価値があると
思っています。

では、本書の中で私が特に興味を惹かれた
箇所を引用しておきます。

本書に綴られた考え方を知り、自分は
どう考え、どう行動に活すのかを、
ぜひ、考えてみて頂ければと思います。

【引用5選】

❶イメージと現実が交錯する

「真実」は様々な空想、数学的に表現すれ
ば虚数の重なり合いなんだ。

人間の現実は、とても多くの層を常に変化
し続ける層を形づくらなければならない。

君が接触しているすべての層は、各々の
現実の階層があり、僕はそれをフィールド
・オブ・センス、「意味の領域」と呼んで
いる。

❷デジタル時代だからこそ哲学が必要だ

自分の精神、考えの基本的な論理演算に
ついていくらか知っていれば、ものごと
をより賢い方法で検討し始めることがで
きるはずだ。

それは、戦略的にも役に立つけれど、
人間性の発展に貢献することも明ら
かだ。

❸新実在論も日本の哲学と類似性がある?

哲学には完全に互換性があると僕は思う。
それぞれの特徴があって、解読する必要は
あるけれど、

僕の哲学のアプローチが日本人にピント
来るのは、「世界が存在していない」と
いうことと、時間や構造などの不存在の
経験との間にはとてもよく似た感受性が
あると思うんだ。

❹言語は未来から過去へと流れる

言語は、未来から現在を通して過去に
流れるのだ。

言語は逆の時間方向を持っている。
自分の考えを常に言葉で表していることを
踏まえると、自分の人生も逆方向で送って
いることに気づく。

人生は思考する生き物として生から死へ
流れるのではなく死から生へ向かうのだ。

❺「危機の時代」にあなたにわかって
ほしいこと

危機の時代に何が起こるかと言うと、
新しい観念が必要になる。

僕らは、今こそ、本当の事実を見つけ出す
ため、人類全体として力を合わせ始めなけ
ればならない。

もし、僕らが、何が事実か、何が明らかな
事実かを知りさえもしなければ、民主主義
の出番など絶対にないだろう。

なぜなら民主主義とは、乱暴な要約をすれ
ば、僕が「明白な事実の政治」と呼ぶもの
に基づくものだからだ。

それこそが守るべき価値だ。

民主主義は人々が実際に知っていることを
集め、僕らが実際に知っている点と点を結
び、現実の系統的解釈を考え出す。

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本書に私淑して私が思うこと

『本当の事実を見つけ出す』

これは、本書を読み終えて以降、私の中で
絶やされることのない「意識」の灯り群の
ひとつとなりました。

勇気が伴われなければ、そして、強い意志
がなければ、叶うことのない行動です。

その強い意志を支えているのが、
「新実在論」であると理解をしました。

著者は、ガブリエルの「新実在論」に
ついて、以下のように記しています。

『世界という包括的な概念は誰も捉え得な
い、捉えたと思ってもそれは錯覚であり、
唯一の世界像は存在しないとの認識を、
新実在論という立場で世に広めたいという
考えとも連動するだろう。』

ガブリエルが本書の中で幾度も提示して
いる「意味の領域」という言葉。

常に変化する層、そして、各々の現実の
階層、この二つから「意味の領域」を
考えてみる。

そして、それは、個人の心との関わり方
にも影響する領域。

この層の中で互いの心を意識し、真実を
探る試みを共に行う。

この取り組みが、地球的規模で、
今、必要なのだ、

そう彼はダイナミックに発信していると
理解をしました。

一人ひとりが、まずは身の回りを意識して
見渡し、できることから実行に移していく
ことが大事なのだということ。

多くの人に、その取り組みの重要性、
緊急性を知って欲しいと思います。

本書を価値観を共有できる人に教えてあげ
ることも、その行動の一つになると思うの
です。

きっと、あなたも、本書を伝えられた人も
この行動によって、人生の広がりを感じる
ことができる、そのように思うのです。

私がそうであったように。

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まとめ(「意味の領域」)

『マルクス・ガブリエル欲望の時代を哲学
する』(丸山俊一)についてお伝えしまし
た。

「新実在論」とは、
「ガブリエル」の思想の真意とは、
実に、難解である。

しかし、本書には、その実態を
解き明かす手がかりがある。

以下の表現が、彼の主張を凝縮した
表現であると紹介されている。

『世界は存在しない。
だが、一角獣は存在する。』

この表現、益々謎は深まる。

しかし、以下の説明文を読むと、
その謎は徐々に解かれていく。

『私たちはあるモノ、ある状況を、
意味の場において認識する。

だから、「存在する」ということは、その
認識者によって「意味を付与される」と。


だから、ある意味が付与されれば、想像上
の存在であっても、私たちは様々な認識を
持ち得る。』

いかがでしょうか?

少しづつ、ガブリエルの主張が理解できて
きたように感じるかと思います。

お勧めの一冊です。

彼の言葉の先にある真意を創造しながら
読み進めてい頂ければと、そして、
「意味の領域」を感じ取って頂ければと
願っています。

心は、意味の場を求めています。

ボアソルチ。

株式会社CSI総合研究所
 代表取締役 大高英則

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