エキサイトエッセイ『陰翳礼賛・文章読本』

書評

『華を去りて実に就く』

これは、本書『陰翳礼賛・文章読本』
(谷崎潤一郎)に記されている著者
の言葉です。

実に明確、かつ印象深い言葉です。

本書を読み進める中で、この表現に出会
いました。

私は、小説家ではありませんが、仕事の
関係上、日々「書くこと」を生業として
います。

セミナーや研修の原稿、集客用の告知文、
そして、会報誌のコラム等々です。

なにを基準に文書を仕上げていくべきか、
長きに渡り、考え続けてきました。

書に私淑、条件が整えば親炙を繰り返し、
また人からの助言を受けたり、近々に
おいては、今流行りのChat GPTにも。

いづれにしても、自分の確たる思いを紙
に落とした後に、そうした長けた一団に
投げかけ充実した表現を求めてきました。

本書は、著者の多様性の或る、また得心
できる内容で満たされています。

私にとっては、語彙、表現を磨くための
かけがいのない「一冊」といえます。

本書は、以下の内容で構成されています。

一 文章とは何か
二 文章の上達法
三 文章の要素

本書を通して、多くの人に「書くこと」の
喜び、発見、充実感を味わって頂きたいと
願っています。

特に日々「書くこと」に関わる方は、
ぜひ一度本書に身を委ねてみることを
お勧めします。

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本書で学んだ素敵な言葉

口で話す方は、その場で感動させることを
主眼としますが、文章の方はなるたけその
感銘が長く記憶されるように書きます。

(本書「言語と文章」より)

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書くことに思い悩む、あなたへ

『文章の要は何かといえば、自分の心の中
にあること、自分の云いたいと思うことを
できるだけその通りに、かつ明瞭に伝える
ことにあるのでありまして、

手紙を書くにも小説を書くにも、別段それ
以外の書きようはありません。』

これは本書「文章とは何か」の章において
記されている言葉です。

いかがでしょうか?

私を含め「書くことに思い悩む」人には、
なにか、焦りが取り剝がされ、心が安堵
するような気持ちになれるのでは。

物事の事象のどこに焦点を置き、そして、
事実と感情をどの角度から切りとれば良い
のか、取った各々はどう表現の土台に載せ
れば良いのか、等々

上記の言葉は、淡々と落ち着いた風情の中
で、諭してくれています。

ただ書けば良いのでは決してなく、それ故
に真剣であればあるほど迷いの渦に巻き込
まれていく。

私も幾度となくこうした思いに蹲ってきた
ように思います。

本書は、そうした深く、重い感情と上手に
付き合いながら執筆を続けられるような術
を教え与えてくれています。

ぜひ、想いの壁に遭遇した際には、この
言葉を思い出して欲しいのです。

肩の力を外して、今取り組んでいる対象に
心から真剣に取り組めば、きっと解決の道
は拓けてくることと思います・

それでは、「せきがくの旅」を、どうぞ。

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「エキサイトエッセイ」を紐解く著者の考え

『一体、簡潔な美しさと云うものは、
その反面に含蓄がなければなりません。』

これは、谷崎潤一郎の実に簡潔、かつ
深い重みを感じさせる言葉です。

さらに、次のように語っています。

『読者が正しく読んでくれるかどうかは、
気にし出したら際限がないのであります
から、これは読者の文学的常識と感覚と
に一任する。

それだけの常識と感覚のない読者は、
どちらにしても内容を理解する力がない
ものであるとそう見なすのであります。』


そして、本書「解説」には、以下の言葉が
記されています。

『ここではついに読者を突き放している。
通常の作家にはちょっとできないことで
あり、谷崎だから言えることだ。

笑ってしまうのだが、これが谷崎の、
そして実は、大多数の作家の本音で
あろう。』

この言葉に、とても共感できるというのが
私の素直な思いです。

「短くまとめること」の難しさは、それを
試みたものだけにしかわからないと純粋に
思います。

美しさと秘められた熱い思いをにじませる
ことの難解さ、しかし、それを実現できた
ときの喜びは、とても大きいのです。

それ故に「簡潔な美しさ」を求め続けるの
だろうと思うのです。

谷崎潤一郎は、こんな答えを用意してくれ
ていたのです。私が長きに渡り探し求めて
いた答えに近づけるように感じています。

『言葉や文字で表現できることと出来ない
こととの限界を知り、その限界内に留まる
こと』


ぜひ、この意味をご自身で繰り返し、
考えてみて頂きたいのです。

きっと人生に大きな影響をもたらすことの
きっかけになるように思うのです。

では、本書の中で私が特に興味を惹かれた
箇所を引用しておきます。

本書に綴られた考え方を知り、自分は
どう考え、どう行動に活すのかを、
ぜひ、考えてみて頂ければと思います。

【引用5選】

❶前に云ったことと後に云ったこととが
必ずしも論理的に繋がっていず、その間
に意味の切れ目がある、そこが大いに
余情があって面白いのであります。

間隙が、美しい日本文を作るのには大切な
要素でありまして、口語文には最もそれが
欠けております。

❷僅かな言葉が暗示となって読者の想像力
が働き出し、足りないところを読者自らが
補うようにさせる。作者の筆は、ただその
読者の想像を誘い出すようにするだけであ
る。

❸自分の云おうと欲する事柄の正体が何で
あるか、自分でも明瞭には突き止めていな
いのが常であります。

そうして実際には、或る美しい文字の組み
合わせだとか、または快い語調だとか、
そう云うものの方が先に頭に浮かんで来る
ので、

試みにそれを使ってみると、従って筆が動
き出し、知らず識らず一編の文章が出来上
がる即ち、最初に使った一つの言葉が、

思想の方向を定めたり、文体や文の調子を
支配するに至ると云う結果が、しばしば
起こるのであります。

❹思うに、昔から文章を彫琢すると云い、
推敲すると云いますのは、その大半が単語
の選択に費やされる苦心を指すのでありま
して、

私なども、何十年来この道に携わっており
ながら、未だに取捨に迷うことが多く、
若い時と同じ辛労を覚えるのであります。

❺一体、われわれは、生な現実をそのまま
語ることを卑しむ風があり、言語とそれが
表現する事柄との間に薄紙一と重の隔たり
があるのを、品が良いと感ずる国民なので
あります。

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本書に私淑して私が思うこと

『華を去りて実に就く』

本ブログの冒頭で紹介をさせて頂いた
この言葉は、私の心にひとつの道筋を
つけてくれたように感じています。

私が携わる文章は、新規性を伴うもの
になります。

「おお~!」と思わず声を出してしまう
表現を追い続けているといえます。

それは、その実態はなにか?

今の私の中では、2つです。

「悩みの解決」と「未来」です。

後者について補足をするとすれば、
将来のまだ見ぬ「理想の姿」という
表現が相応しいと感じています。

この2つのことが伝われば、新規性が
形として現れてくることになります。

そして、表現としては、瞬時に注目を集め
る目立ったものを意識していたように思い
ます。

しかし、本書に私淑する中で、そのことの
誤りに気づかされた思いです。

『華を去りて実に就く』

著者は、こう解説をしています。

『余計な飾り気を除いて実際に必要な言葉
だけで書く、と云うことであります。
そうしてみれば、最も実用的なものが、
最もすぐれた文章であります。』

見事な得心のゆく、「説得力」です。

私の思いは、書くことの理想と実質は、
本書を読み終えた時から変わりました。

そして、私の心が素直に改まったのは、
本書「実用的な文章と芸術的な文書」の
章に記された以下の言葉によります。

『文章の要はなにかと云えば、自分の心の
中にあること、自分の云いたいと思うこと
を、出来るだけその通りに、かつ明瞭に伝
えることにあるのでありまして、手紙を書
くにも小説を書くにも、別段それ以外の書
きようはありません。』

この数行の言葉に出会えて、私の心の中で
「書き続けること」の意欲を得ることがで
きたように思います。

生涯、「書き続けていきたい」と心から
思っています。

「書くこと」が、本質的に「好き」
なのです。

好きなことを続ける「心得」と「勇気」を
得たように思います。

「せきがくの旅」は、この意欲が続く限り
最後のその時を迎えるまで続けていきたい
と、そのように思っています。

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まとめ(「エキサイトエッセイ」)

『陰翳礼賛・文章読本』(谷崎潤一郎)
についてお伝えしました。

本書を読み終えて、一番心に、深く
根が降りたことを想ってみました。

それは、著者が語る以下の言葉に、
あるように感じています。

『文章の第一の条件は、「分らせる」よう
に書くことでありますが、第二の条件は、
「長く記憶させる」ように書くことであり

まして、口でしゃべる言葉との違いは、
主として後者にあるのでありますから、
役目としては或はこの方が大切かも
知れません。

で、そこまで考えを進めて来ますと、
文字の体裁、即ち字面と云うものが、
一層重大な要素となって来るので
あります。』

長く記憶に残ることを意識して書く、文字
の持つ「やさしみ」に触れながら書く、そう
あり続けたいとの思いでいます。

「書くこと」を生業とされている方に
とって、本書は、きっと文字と文章と
自己の在り方を考える為の触媒になる
と思います。

ぜひ、「エキサイトエッセイ」について、
向き合ってみて頂きたいと思います。

「真の自分」が見えてくることと、
思います。

ボアソルチ。

株式会社CSI総合研究所
 代表取締役 大高英則

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