その全ての言葉は示唆と普遍性に富む。
日本史上最も知的な雑談といえるだろう。
これは、本書『人間の建設(小林秀雄・
岡潔)』に記されていた言葉です。
文系的頭脳の歴史的天才と理系的頭脳の
歴史的天才による雑談であると紹介され
ています。
実に、興味深く、貴重な雑談といえます。
そして、こんなふうに思うのです。
日本数学史上最大の数学者である岡潔は、
「情緒」に重きを置いて、言葉と向き合っ
ている。
小林秀雄は独創的な批評活動を続ける
文士です。故にその言葉の巧みさには、
空間を超越した驚きを感じます。
身を置く世界と立場が異なる二人の賢人、
ひとつの価値観を共有しているという事実
それ故に成りたった対談であった、と。
その共通した価値観とは、「言葉」である
と私の中では理解をしています。
そして、その言葉は、知識や理論とは別の
「情緒」であったり「直観」であったり。
賢人二人の絶妙な言葉の掛け合い、
そこからは、異なる環境に身を置きながら
互いに共感できる袂を探る姿を感じます。
そして、私の中では、「感情と空間」が
重なり、混じり合い、揺れる人生観を
考え始めるきっかけが生まれました。
本書は、幾度も読み返してほしいと
思う一冊です。
ぜひ、ご自身の人生を通して浮かび上がる
「思索」テーマを発見し、辿って頂きたい
と、そのように願っています。
本書は、18章で構成されています。
以下は、私が好む5つの章です。
・人間の生き方
・「一」という観念
・数学と詩の相似
・はじめに言葉
・情緒を美しく耕すために
本書で学んだ素敵な言葉
人の中心は、愛と信頼と向上する意志
本書「一という観念」の章より
情緒と創造の繋がりから、「人間の建設」を考えてみてほしい!
本書のタイトル「人間の建設」が示す、
本質的な意味合いとは?
数学者岡潔は、なぜ、「情緒」を大切
にしているのか?
文士小林秀雄の価値観が、数学者の感情
にどう共鳴していくのか。
そして、最終的に「人間の建設」の意味を
どう解き明かしていくのか。
ぜひ、二人の高尚な雑談(対談)の深部を
知り、自分の中でどう咀嚼されていくのか
を体感して頂きたいと思うのです。
私の中では「創造」という言葉が、とても
印象強く残り、その根源的な生成過程を
イメージできたように感じています。
本書に私淑することで、賢人二人が紡ぎ出
す言葉と各々の共鳴から新たに生まれる
「価値感」を味わって頂きたい、
と、そのように願っています。
数学者岡潔と文士小林秀雄の「人間の建設」論
『深い洞察に至る精神運動が一つの生命体
のように蘇り、動き出す。二人の知の巨人
の思考パターンのようなものが、肉体に沁
み込んでくる。』
これは、本書「人間の建設」(岡潔・小林
秀雄)の最終章(「情緒を美しく耕す」)
に記されている茂木健一郎の言葉です。
実に得心のいく、読後感をとてもよく
表した言葉です。
本書を読み終えた自分が、読前と心情面で
異なりを得たように感じます。
それは、変化ではなく「広がり」という
表現が良いのかもしれません。
いずれにしても、自分が「考え方」の面で
成長できたように感じています。
「情緒」という言葉から始まり、それが、
「想起」を超え、「創造」に至る。
それは、「情熱」をもった「直観」を
感じることから始まる。
こうした一連のプロセスにより、
「人間の建設」が成されていく。
異なる世界に身を置く第一人者二人が、
思いを共鳴させ、思考の欠片を混合し、
静かに重なり合う姿、残像を感じます。
数学者岡潔が繰り返し語る「情緒」に
ついての深い思い。
文士小林秀雄が、おそらく深く大事に
している「直観」という心の響き。
ぜひ、二人の心の深奥が照らされた空間に
身を置いて、思考の変遷を辿り、創造への
道程を感じて頂きたいと願っています。
本書は、多くの方々に
一読をお勧めしたい一冊です。
では、本書の中で私が特に興味を惹かれた
箇所を引用しておきます。
本書に綴られた考え方を知り、自分は
どう考え、どう行動に活すのかを、
ぜひ、考えてみて頂ければと思います。
【引用5選】
❶人間の生き方
発見はみな行き詰ったとき開ける、
いかにも奇妙な開け方です。
行き詰って、意識的努力なんかできなく
なってから開けるのです。
❷「一」という観念
愛と信頼と向上する意志、大体その三つ
が人の中心になると思うのです。
私の世界観は、つまり最初に情緒が
できるということです。
❸数学と詩の相似
確信しない間は複雑で書けない。
人が何と思おうと自分はこうとしか
思えないというものが直観です。
❹はじめに言葉
思索は言葉なんです。自分にわかるような
符牒の文章です。人にわからす必要もない
ので、他人にはわからないものです。
自分には書いておかないと、何を考えたの
かわからなくなるようなものです。やはり
次々書いていかないと考え進むということ
はできません。
❺情緒を美しく耕すために
情緒が創造の出発点となる。具体的な個物
は、その情緒に導かれて、流れるように生
み出されてくる。
意識はただ邪魔をしさえしなければ良い。
このような創造のプロセスの本質において
数学と文章表現は通底している。
本書に私淑して私が思うこと
情緒が創造の出発点となる。
生命の本質は、不断なる生成。そうして、
脳による創造性の出発点は、一つの情緒。
だとすれば、私たちは「情緒」を育み、
耕し、抱くことに心を砕かなければなら
ないだろう。
以上は、本書『人間の建設』の「情緒を
美しく耕す」の章に茂木健一郎が記した
言葉です。
難解に思える『人間の建設』の根本心理
を理解しやすい表現に置き換えてくれて
います。
私は、こう理解しています。
ここでいう『人間の建設』の「建設」は
この地球上で唯一人類が保有する「創造」
の力を指している。
そして、その「創造」のもととなる
「情緒」を大事に育むことが、とても
大事なことである。
「情緒」の育成に欠かせないものが、
豊かな「感情」であり、それは、環境、
即ち、風通しが良い「空間」の構築、
建設が必要であることと同義である。
「人間の建設」とは、人間の感情を育む
空間の建設が必要かつ急務であることを
意味するものであると理解をしました。
ぜひ、本書を読み進め、対談者の考えを
知り、その上でご自身の解釈と考え方を
見つめてみることをお勧めします。
きっと、「情緒」から新たな発見が
成され、「創造」が形になっていく
ことと、思います。
まとめ(「人間の建設」)
『人間が新しい価値あるものを生む出す
という限りない驚異の秘密を「情緒」と
いう言葉で指し示した岡潔には先見の明
があった。』
これは、本書「情緒を美しく耕すために」
の章に記された茂木健一郎の言葉です。
人間の最も優れた能力であり、かつ
人類の発展に欠かせないもの、
それが「創造」。
そして、その「創造」の出発点が、
「情緒」であるということ。
このことを知る機会を得ただけでも
本書に私淑した価値は十分にあると
そのように感じています。
「情緒」とは、goo辞書には、
以下のように記されています。
『事に触れて起こるさまざまの微妙な感情
その感情を起こさせる特殊な雰囲気』
微妙な感情が生じるには、多くの人生体験
が必要であるように思います。
「創造」を生業とするのであれば、専門性
に固執するのではなく、専門外のことにも
興味を示し行動し、そして、肌で感じる。
そうした積極的な生き方をすることの先で
思いがけないシーンで「無意識」の内に、
「創造」が見えてくる。
そう思うのです。
冷静に考えてみると、これまでの経験の中
で、そうしたことが実際にあったように
思えます。
言えることは、もうこれ以上は無理、
できない、というところまで考えた後、
全く違うことに身を置いていた時のこと。
いろいろと検討し考えたことが、
目の前の「たったひとつのこと」と
一瞬共鳴し、解決策が微かに揺れた。
そして、その瞬間、その解決のための
アイデアの欠片を懸命に拾い集めていた
ように思います。
「創造」のための「感情と空間」
であったように思います。
以上は、私の経験です。
本書を読み進めながら、賢人二人の高尚な
雑談を体感し、ご自身の過去と将来に向け
た生き方を考えてみてはいかがですか?
お勧めの一冊です。
ボアソルチ。
株式会社CSI総合研究所
代表取締役 大高英則
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