独自の史観『世界史』ウィリアム・マクニール

書評

『冷たい過去の史実から、生きた人間の
すがたをまざまざと実感させる

これは、本書『世界史』(ウィリアム・
H・マクニール)(訳者増田義郎)
紹介されている訳者から見た著者に
対するイメージです。

実に、得心が行く言葉です。

既に過ぎ去り固定化した過去の空間と
そこに生きた人々の実態を今の世に、
呼び起こす壮絶な離れ業に思えます。

訳者は、次のように記しています。

『マクニール博士には、歴史がその細部
にいたるまで見えるのである。』

その根拠として、著者が著した本書のもと
になっている「西欧の興隆」について、

『人が一生に一度しか書けないトゥル・ド
・フォルスなのである』と記しています。

著者の偉大さがよく表されています。

さて、世界史について、みなさんは多くの
知識をお持ちでしょうか?

私の知識は、学生時代に受験科目として
関わった程度のものでした。

世界史を広く、全体から俯瞰して眺め、
その歴史観を深く考えてみたことも
なかったのです。

しかし、著者の「独自の史観」に出会い、
世界史に対する思いは大きく変わってき
ました。

「なぜ、同時期に、遠く離れた場所で、
類似の文明が栄えたのか?」

これは、私がそれ以降、常に抱えている
疑問です。

ホモサピエンスとしての性から偶然、各々
の地で生じたことであるという説と最初に
ある地点で栄え、やがて大移動によって、
他地に広まったという説があります。

私は、後者の考えです。

しかも、その最初の地は、アフリカの地
ではなく、我が国日本の地であると信じ
たい思いが深まっています。

それは、本書をきっかけに歴史に興味が
生じ、また、いつも私のなかに存在する
人からの影響もあり、古代史に魅せられ
たからです。

世界史を巡る先には、人としての成長が
あるように感じるのです。

ぜひ、本書を読み進め、著者独自の史観を
体感して頂きたいと願っています。

本書は以下の章で構成されています。

・ユーラシア大文明の誕生とその成立
(紀元前500年まで)
・諸文明間の平衡状態
(紀元前500‐後1500年)
・西欧の優勢
・地球規模でのコスモポリタニズムの
 はじまり

では、人生の広がりを生む
「せきがくの旅」をどうぞ!

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本書で学んだ素敵な言葉

文字通りの世界史、しかも浩瀚こうかんな世界史
である。

本書「訳者あとがき」より

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独自の史観というテーマを考えてみてほしい!

『各時代の歴史は、文明という攪乱の原動
力の実態を明らかにし、つぎに、文明以外
の地域社会がその変動の波にいかに反応し
たかを考察すれば、その大筋をつかむこと
ができる。』

これは本書において、「著者によれば」と
いう表現を枕詞にして語られた内容です。

史観を深めていくための心得のように
感じます。

この考え方の根拠として、以下のような
記述があります。

著者の独自の史観を理解するには、まず
この表現を深く味わうことから始めるの
が良いと思います。

『文明とは、きわめて密度の高い、強烈な
魅力をもつ社会であり、歴史上いかなる時
代においても、諸文化間の均衡は、文明か
ら発散される力に攪乱され、文明の近隣の
社会は、なんらかのかたちで伝統的な社会
・文化の構造を変えて、この新しい状況に
適用しようとする。』

文明がひとつの形として成り立っていくに
は、2つの形態があると思います。

ひとつは、特殊な技術を拠り所とした圧倒
的な統治支配力、そして、もうひとつは、
ある目的の元に集まった平等な共同体。

理想は後者ですが、現実は前者による歴史
が圧倒的に多いという事実があります。

こうした理由により、栄えた文明社会の
近隣の集団は、その支配下に入る歴史が
繰り返されてきたいえます。

これは、私が本書に私淑したのちに得た
独自の史観といえます。

著者の卓越した本来のあるべき独自の史観
にふれ、そして、自分の中で深く思考を繰
り返し、自分ならではの独自の史観を築い
て頂ければと願っています。

未来を生きぬくために、歴史に学ぶ心を
大切にして欲しいと思います。

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「独自の史観」を強調する著者の考え

『人間の行動は、DNAのすばらしい機構
によって遺伝された個人の生物学的な資質
よりも、人が社会の中で学んだものの力に
よって遥かに律せられるようになった。』

これは、本書第Ⅰ部に記された著者の
言葉です。

さらに、言葉は続きます。

『文化的進化が生物学的進化の先に立った
とき、本来の厳密な意味での歴史がはじま
ったのである。』

実に、歴史を深く見据えた説得力のある
言葉です。

これは本書で著者が語る貴重な歴史観の
一部です。

著者は、こうした記述について「私個人
の歴史観」という表現を記しています。

それは、以下の理由によるものです。

『世界史なるものに関しては、統一的な基
準はまだできあがっていない。何を削って
何に焦点をあわせるかは依然として議論の
的であり異論の絶えないところである。』

歴史を読み扱うものとしても反芻すべき、
教えと言えます。

文明の誕生、宗教・戦争の流れ、人の移動
等々、歴史の事実とその経緯について、
その膨大な時間の経過を平易に説き明かし
てくれます。

本書は、「歴史の流れ」を感じさせる
名著といえます。

では、本書の中で私が特に興味を惹かれた
箇所を引用しておきます。

本書に綴られた考え方を知り、自分は
どう考え、どう行動に活すのかを、
ぜひ、考えてみて頂ければと思います。

【引用5選】

❶文明は、巨大で長い生命を持つがゆえに
いきおいその数は限られざるをえない。

事実、人間社会がはじめて文明化した複雑
さと規模に到達したとき以来、旧世界では
たった四つのことなった大文明の伝統が、
共存してきたにすぎない。

❷ホモサピエンスは、地上に現れてからの
時間の十分の九の期間は、ひたすら狩猟採
集の生活を送り、簡単な木器と石器を使っ
たり、火を用いることを知っていたにすぎ
ず、

現在わかっているかぎりでは、何世代たっ
てもほとんど変わることのない暮らし方を
していた。

❸イスラム教が急速にひとつの一貫した、
そして法的に規制された生活の様式となっ
たので、近隣の諸国は、イスラム教を受け
いれるか、全面的に拒絶するかのふたつに
ひとつを選ばなければならなかった。

イスラムに抵抗するために、ヒンズー教と
キリスト教は、それぞれ自己のはっきりし
た特性を今まで以上に強めることになった
のである。

❹ルネッサンスと宗教改革という、双子の
しかも競合し合う運動は、ヨーロッパの文
化的遺産のふたつの異なった側面を強く表
している。

異教的な古代の知識と技法と優雅さを再生
させようという理想を掲げて登場した人々
は、ヨーロッパの過去のギリシャ=ローマ
的構成要素を賛美したのに対して、

聖書の線に沿って宗教改革を熱心に行おう
とした信者たちは、西欧文明のユダヤ=キ
リスト教的な要素から主な霊感を得た。

❺世界の他の地域に対する西欧の優越の鍵
は、単に物質的優越と政治組織の問題だけ
ではなかった。

このふたつが重要なのはもちろんだったが
それに加えて十九世紀全体を通じて二十世
紀初頭までの間、西欧化学における知的成
果と、真実と美に向かって西欧人が生み出
した芸術的表現とは、比類ないほど深みと
力と洗練の域に達した。

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本書に私淑して私が思うこと

『異なった文明間の地理的背景や接触の
経路が、中心的な重要性を持つ。』

これは、本書「序文」において、著者が
語っている言葉です。

この言葉は、以下に示す著者の続く思い
を辿ることで、さらに深い探求の切り口
を感じることになります。

『考古学、技術史、美術史などは、今日
まで残った文書記録ではときにわからな
い古代の諸関係に、重要な暗示を与えて
くれる。』

最初に起きた文明による攪乱からその周辺
に起きた革新にどう反応、反発をしたかを
考察することが歴史を見極める手立てであ
ることを本書は教えてくれます。

この歴史に対する視線こそが、著者が歴史
を流れるようにまとめあげた才であると、
私の中では、そう分析をしています。

地球誕生から45億年、この宇宙的な時の
流れを如何に読み手を飽きさせることなく
綴り続けるか、歴史家の責務と言えます。

著者は「独自の史観」により、それを実現
しているのです。

地球に酸素が生じたのは30億年くらい前
のことであり、それはシアノバクテリア
の光合成によるものだと他書で知りまし
た。

しかし、それは、微量の酸素であり、現在
の量に達したのは5億年前、今後10億年で
酸素はこの地球上から消滅するという研究
がなされていることも知りました。

そう考えると、今が如何に偶然性を帯びた
大変貴重な時であるかを深く考えてしまい
ます。

同時に、これまでの地球上の歴史をもっと
知りたいと思うようになったのです。

この思いを遂げるためには、本書の流れる
ような歴史の考察が欠かせないものである
と強く感じています。

ひとりでも多くの人に、これまで気付かな
かった歴史の特異点を深く知って欲しいと
願っています。

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まとめ(「独自の史観」)

今回は、『世界史』(ウィリアム・H・
マクニール)についてお伝えしました。

世界で四十年余にわたって読み続けられて
いる書籍です。

その理由は、読み終えた瞬間に感じること
ができるように思います。

著者の「独自の史観」、「流れるような
歴史考察」の技法に触れ、読み手がそれに
共鳴できたのならば。

完読の瞬間をぜひ、味わって頂きたいと
思うのです。

著者が如何に歴史の事実を把握し、多様な
考察を続けたのか、そこに対して読み手と
してどう感じ、新たに考えを巡らすのか、

「せきがくの旅」を一刻も早く始めること
をお勧めします。

本書に私淑することで得られる「人生の広
がり」を感じて頂きたいと願っています。

ボアソルチ。

株式会社CSI総合研究所
 代表取締役 大高英則

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